
小林伸一郎は大学在学中に写真の世界に入り、広告、エディトリアルの撮影をするかたわら、
自らの写真表現を追い求め旅を続けてきました。
1991年、東京湾岸の激変する風景を収録した写真集『Tokyo Bay Side』を出版。
湾岸の工場、倉庫が取り残され廃墟になる光景、一方で巨大構造物が完成へと向かう形状、両者をアーティスティックに切りとった、ドキュメンタリーとアートが融合した完成度の高い作品として注目されました。
また、全国の廃墟をモチーフに、朽ちていく美を個性的な色彩と精緻な描写で多くの人を魅了した廃墟シリーズなど、
日本の景観を独自のテイストで捉え、精力的に活動しています。
2008年秋、当館で開催した「写真展第一章 海人 1977~1988」は、二十歳代前半から巡り歩いた島や名もない岬、海辺に生きる人たちをみずみずしい感性でフィルムに収めた、小林の原点と呼べる未発表モノクローム写真を展示いたしました。
そして今回、「写真展第二章 島波 瀬戸内景」は、小林が初めて瀬戸内を訪れてから三十数年の歳月を経て再訪の旅をスタート。
風光明媚な観光地や由緒ある寺社仏閣へレンズを向けるより、むしろ見過ごしてしまいそうなシーンを大切に拾い上げています。
それらの写真は、被写体と正面から対峙し、的確に視覚表現している近年の作品とは一見趣が異なるように感じますが、
画面から溢れる印象的な光と鮮やかな色彩が織りなす構成は、様々な被写体と向き合って培ってきた感覚が結実されています。
長い時間の経過で変わってしまった島の情景。遠い昔に歩いた海辺の記憶。過去と現在が重なり合うことにより生まれる新たな視点で撮り下ろした、オリジナルカラー作品100点を展示いたします。
《広島県尾道市 尾道駅前渡船 尾道》 小林伸一郎