レクチャー「街とスケッチ」を開催しました
更新日:2015年7月15日(水) 【nakata Labs なかたラボ】
今日は、台風が来るとは思えない青空になりました。
急に暑くなって、緑が一段と濃く感じられます。
さて、遅ればせながら先日のnakata Labsレクチャー『街とスケッチ』の様子をご紹介いたします。
開催中の展覧会は「コレクションプラス 街を描く」。
街を描けば必ず登場するのが、さまざまな建築ですよね。
そこで、建築家で、NPO法人尾道空き家再生プロジェクトの理事でもある渡辺義孝さんをお招きしました。
かつて、渡邉さんが建築家としての修業を始めたときに、師事した鈴木喜一氏から、
毎日必ずスケッチをしろ、というひとつの条件付きで約3ヶ月の旅に出されたのだそうです。
それ以来、現在に至るまで中央アジアやユーラシアなど、約50ヶ国を旅し、
それぞれの街で出会った人や建築をスケッチしてこられました。
建築の造りや細部には、どうしてそうなっているのか、ひとつひとつ理由があるとのこと。
そこに気づくには、描いてみることが一番です。
正確に描こうとしたとき、いったいどのくらい見ているのか、渡辺さんは一度数えてみたそうです。
するとだいたい4〜5秒に一回、一分間に13回だったそうです。
スケッチをしなければ、なかなかそれだけの回数、真剣に見ることはできないのではないでしょうか。
展示作品についても、いくつかピックアップしてお話いただきました。
ノートルダム寺院の正面ではなく、あえて裏側の骨組みが見えている作品。
駅を描きながら、中央部分が汽車の黒い煙でもやもやしている作品。
賑わう市場をカラフルに描き、人いきれが感じられる作品・・・。
それぞれに建築愛や、そこに暮らす人の生活や人生が感じられます。
渡辺さんのお話はまさに旅のように、フランスからアルメニア、グルジアやパキスタン、
そして陸前高田や白馬村、久留米、向島や御調のことへ、連綿と連なっていきます。
道と家並みの関係から歴史を想像したり、スケッチしながら建築の構造を読み解いたり、
都会と郊外、駅舎や教会、工場、カフェなど人が集まる場所、民家やかつて人が暮らした遺跡・・・
建築を見ること、描くことは、その街の歴史や人々の暮らしに思いを馳せることでもあるのだと感じました。
また渡辺さんは、尾道に多く残る洋風建築の調査もしてこられました。
洋風建築には、レンガ造りやアーチといったぱっと見て分かりやすいものだけでなく、
モルタルの風合い豊かな「ドイツ壁」や、屋根の角を落として優美に見せる「ヒップゲーブル」、
軒の裏に板を張る、などといった細かい特徴を持つものもあるそうです。
そんなディティールに気付くのも、スケッチをしているからこそ。
自分で描いた街のことは、忘れることなく記憶に残るのだとおっしゃいます。
そして悲しいことに、守られてきた建物だけでなく、戦火や災害で壊れてしまった建物もあります。
時には描くことができない、ためらわれるようなこともありました。
しかし、様々な事情で壊さざるを得ない建物のスケッチや図面が、建物の持ち主に心から喜ばれたというご経験も。
描かれた建築の姿は、写真や映像とはまた違うあたたかさを持った、かけがえのない記録になりうるのだと感じました。
このほかにも書ききれないほど、たっぷりお話いただきました。
渡辺さんのお話を聞いたあとは、改めてじっくりと作品を見てみたくなります。
実際に普段よりも、ゆっくり鑑賞してくださる方が多いようでした。
皆様ありがとうございました!
「コレクションプラス 街を描く」 は、9月27日(日)まで開催中です。
ぜひそれぞれの街に思いを馳せながらお楽しみください。
ワークショップ「絵の中の街並みスケッチ」を開催しました
更新日:2015年7月9日(木) 【nakata Labs なかたラボ】
先日、ワークショップ「絵の中の街並みスケッチ」を開催いたしました。
展覧会の作品を好きな画材で模写をする、というとてもシンプルな内容ですが、
日本ではなかなか体験出来ないプログラムではないかと思います。
まずはじめに展覧会作品を鑑賞したのですが、
普段は純粋に鑑賞できる作品も、これから模写をすることを考えると
これは描きやすそう、難しそうといった目線で作品を見てしまいます…。
そして作品を選んで描きはじめます。
慎重に鉛筆で形をとっていきます。
ただ、今回展示してある作品は建物が描かれた作品が多く、
しかも外国の建物は窓がたくさんあったり複雑な形をしていたりして
形をとるのにかなりの集中力を必要とします…!
皆さん黙々と描いておられました。
着彩の道具は、水彩絵の具やアクリル絵の具、クレヨン、色鉛筆を使いました。
こちらの方は、ブラマンクが描いた田舎町の風景を透明水彩で描かれていました。
ブラマンク独特の、ずっしりとした空気が一転してさわやかな作品になりました。
ブラマンクの作品がザアザアと大きな木を揺らしながら吹く風だとすると、この模写された作品はさらさらと
穏やかな風が吹いているようです。
画材が変わるとまた雰囲気も変わりますね。
それも模写の面白いところの一つです。
今回は3時間の制作時間だったのですが、まだまだ時間が足りない、あと1日描きたいという声も!
確かに観察しながら正確に形をとっていって、
色味も真似して描くためにはじっくりじっくり描き進めなければなりません。
なかなか根気のいる作業でしたが、模写をしていくことで鑑賞だけでは気づかないことを
発見することができました。
参加者の皆さん、ご参加頂きありがとうございました。おつかれさまでした!(←心をこめて…!)
柴田元幸&トウヤマタケオ 「朗読とピアノの夕べ」を開催しました。
更新日:2015年6月27日(土) 【コンサート】
なかた美術館では、昨日久しぶりに夜間開館のスペシャルイベントを行いました。
かねてよりtwitterなどでお知らせしており、多くの方が楽しみにしてくださっていた
柴田元幸&トウヤマタケオ「朗読とピアノの夕べ」です!
今回、企画してくださったのはignition galleryの熊谷充紘さん。
柴田さんが責任編集を務める文芸誌「MONKEY vol.6」の刊行を記念した、朗読ツアーのなかの尾道公演でした。
おかげさまで定員を超えるご参加をいただき、大盛況となりました。
本とお菓子の販売で、「ホホホ座 尾道店」さんも出店してくれました!
MONKEYの最新号はもちろん、バックナンバーや、海外文学を中心にした、古書もずらり。
そしてこの日のため、なんと本と猿のかたちのクッキーを焼いて持ってきてくれました!
これがまた可愛いのです・・・!
そして、張りつめた緊張感と大きな期待のなか、公演がはじまります。
まずトウヤマさんのピアノが響きます。
すっくと立った柴田さんが、大きな声で朗々と語る最初の物語は、MONKEY vol.6からのクールな一篇、
スチュアート・ダイベックの「ヒア・カムズ・ザ・サン」でした。
その声は力強く、お腹の底から響いて来て、確かな言葉で、聞く人をぐいぐい物語のなかに引き込みます。
そしてトウヤマさんの演奏が、物語を包み込むように柔らかく、
あるいは突き放すように淡々と、絶妙なバランスで並走します。
その後は、ギリシャ神話になぞらえて一人のヴァイオリン弾きを描いた、
切なくて恐ろしいパトリック・マグラアの「オマリーとシュウォーツ」、
MONKEYvol.6では「奇妙な店」が掲載されているウォルター・デ・ラ・メアの、
しずかな恐怖を描いた「謎」。
第二部では、世界と自分とのズレを切実に描いたブライアン・エヴンソンの「ウインドアイ」、
最後は、アイザック・シンガーの「靴紐に寄せる惜別の辞」が高らかに謳いあげられました。
物語に、声と音楽がふきこまれることで、次々と立ち現われてくるイメージ。
その鮮やかさ、強さたるや!
まるで物語そのものが、いま柴田さんの姿をして目の前にいるような感覚。
その肉声に、全身を打たれるような体験は、もはや手に負えないくらいに圧倒的でした。
あいだにはさんだ質疑応答では、朗読の緊張感とはうってかわって、
柴田さんが実に気さくに色々と答えてくださいました。
作家は、自分で自分の本がおもしろいよ!とは言いにくいけれど、
翻訳者は、自分が翻訳した本をおもしろいよ!と言えるし、言うべき立場だと思う、という言葉に納得したり、
“この物語は、こう読まれたがっている”という物語の意思のようなものに基づいて読む。という言葉に、作品に対する理解や愛の深さを思ったり・・・。
実は文学より音楽が、もっと早くから自分の深いところにしみ込んでいると語る柴田さんにとって、
今回のMONKEYのような音楽をテーマとした特集は念願だったとのこと。
(その刊行記念の朗読会を開催することができて、本当に光栄です・・・!)
ちょっと冗談を飛ばしたり、照れくさそうな笑顔を見せる柴田さんも印象的でした。
美術館は、たとえば100年前の人間が描いた絵を、目の前に見ることができる場です。
そうした場で、柴田さんが異なる国や時代の物語を、翻訳して、さらに朗読して、わたしたちに届けてくれるということ、
またトウヤマさんの演奏が、やはり未知のもの、目に見えないものをすくいあげて、それを聞くことができる、というしあわせ。
そして、集まったみなさんがそれぞれに、その全てをしかと受け止めてくださっているという実感があり、
なんだか胸がいっぱいになってしまったのでした。
また、今回はおひとりでお越し下さった方が多かったこと、初めて当館に来て下さった方が多かったことも嬉しかったです。
お二人のファンが多いのはもちろん、本というもの、文学を楽しめる場を求めている方が、こんなにたくさんいるんだなというのも感じました。
ご来場いただいた皆様、お手伝いしてくださった皆様と、一緒に素晴らしい時間を共有することができて、本当にうれしく思います。
どうもありがとうございました!!
音楽鑑賞の場として、所蔵のチェンバロを中心としたバロックコンサートを定期的に開催するほか、ジャズやクラシックなど様々なジャンルの演奏家によるディナー付きコンサートも企画・開催しています。併設するフレンチレストラン「ロセアン」では、ランチ・ティータイムはもちろん、美術館閉館後もゆったりとした空間でライトアップされた庭園を眺めながらの本格的なディナーが楽しめます。