ワークショップ『目には見えない絵』を開催しました
更新日:2018年12月22日(土) 【nakata Labs なかたラボ】
先日、当館学芸員が非常勤講師として『博物館教育論』の授業を担当している尾道市立大学の学生さんたちを、
校外学習として美術館に招き、一緒にワークショップを行いました。
みな美術学科もしくは日本文学科で、学芸員の資格取得を目指して学んでいる学生さんです。
今回は 『目では見えない絵』 と題し、交代でアイマスクをつけて、作品について言葉で伝え合うというワークショップを行いました。
美術館や博物館というのは、何か展示されているものを“見る”場所ですよね。
いつもの私達は、美術館に行くと順路通りにまわって、一つも見逃さないようにしようと思うし、時間がなかったりして全部を見きれなかったとき、すごく心残りに思うのではないでしょうか。
ですが、このワークショップではあえて “作品を見ないこと” をメインの体験にしてみました。
作品の言語化や、視覚以外の感覚を使った鑑賞、作品を通したコミュニケーションについて考察するというのが目的です。
ワークショップを開催するにあたり、参考にさせていただいたサイトをご紹介します。
ビューネット神奈川 「アイマスク体験は慎重に!」
(特定非営利活動法人 神奈川県視覚障害者情報雇用福祉ネットワーク)
http://view-net.org/archives/154
アイマスク体験には危険が伴います。
転倒など物理面の危険はもちろん、安易に体験をすることで「見えないこと=怖い」、「視覚障害者=なにもできない」というマイナス面ばかりが印象づけられてしまう怖れがあるとのこと。
普段から見えない生活をしている状態と、突然視覚を遮断された状態はまったく違うという、当たり前ですが重要な指摘がされています。
また今回は実現できませんでしたが、障害の当事者と協同で体験を行うことが望ましいともされています。
学生たちには、これらの点を十分に説明した上で、危険を減らすことを徹底しました。
● 見えないことによる不便や恐怖といった感情には着目しない。
● 「作品を見ない」という目的をしっかり共有する。
● 移動の際は危ないのでアイマスクをしない
(作品に近づくときも足元だけは見えるようにするなど)
こうしたことを、学生さんたちもしっかり理解してくれていたようです。
見えない鑑賞を行うコツとしては『ミュージアム・アクセス・ビュー』さんを参考にしました。
京都を中心に、目の見えない人や見えにくい人と一緒に、気軽にアートを楽しむグループとして活動されています。
「ミュージアム・アクセス・ビューとは」
http://www.nextftp.com/museum-access-view/what.html
ドリームアーク
「対話しながらアートを体感 ミュージアム・アクセス・ビュー インタビューレポート」
http://www.dreamarc.jp/archives/2080/
“4つの「しない」ルール” by ミュージアム・アクセス・ビュー
(上記サイトより引用)
1.静かに鑑賞しない
おしゃべりしながら作品鑑賞を楽しみましょう。
2.見える人は一方的な説明をしない
自分の声や相手の声、作品の声を「聞く」ことも忘れずに。
3.目の見えない人・見えにくい人は、聞き役に専念しない
どんどん困らせる質問をしましょう。
4.すべて分かり合おうとはしない
人間、すべてを分かり合うのは不可能です。それより気軽に鑑賞しましょう。
さらに伝えるコツとして 3つを追加してみました。
・まず客観的な説明をしてみよう
… 大きさ、色、形など見えるもの
これらを具体的に言い換えたり、何か似ているもの・連想するものに例えてみる
・主観的なことも伝えてみよう
… どう感じたか、どう思ったか
・主観的に思ったことの根拠を、客観的なことと関係づけて説明してみよう
… なぜそう思ったか、どの部分からそれを感じるか
(↑ チーム毎のマップでは、自分がアイマスクで体験した作品を、最初から最後まで全く見ずに終わることができるコースを設定しています)
そして大事なこととして、今回は見えない状態で想像した作品が、たとえ本来の作品と違う姿だったとしても構わない、
“正解”を伝えることや、作品と照らし合わせて答え合わせをするのが目的ではないということ、ということも伝えました。
また視覚以外の感覚を使うために、以前に『子ども学芸員の旅』でも使った「手触りの見本」を用意しました。
紙や布、革などさまざまな素材を集めています。
作品の印象や質感を伝えるために、言葉では足りないとき、相手の指先が触れるようにして使ってもらいました。
3人〜4人ずつのグループに別れて1人がアイマスクを着用、ほかのメンバーが説明や書記を行います。
その役割を順番に交代しながら進めていきました。
最後に「どんなふうに作品を思い浮かべたか」を各自で振り返り、同じ作品を体験した人同士で、その内容を共有しました。
学生たちの感想を一部ご紹介します。
まずは伝える側のとき
「自分の感じたことを伝えるのは簡単ですが、相手がどう感じるかを考慮すると、迷ってしまって難しかった」
「情報は足りているのか、伝わっているのか、説明していて不安になった」
「言葉で伝えようとすると、見えるものが増える気がした」
「二人で情報を出し合うので、お互いに違う点に着目していて面白かった、見えていても新しい発見があった」
「今までで一番くらい、一枚の絵を長時間をかけて真剣に見ることができた。人に説明しているうちにだんだん愛着がわいてきて絵のことを好きになれた」
「相手の話に耳を傾けることの重要さを知った。一方的に話しがちだったことに途中で気づいて、相手の話を聴くようにしたら相手の想像がどんどん広がっていくのがわかった」
アイマスク着用のとき
「自分のなかで新たな絵画、作品が描かれていくのがわかった、目で見て鑑賞するよりも入ってくる情報が多いように感じた」
「話を聴いていて、だんだん絵のディテールや雰囲気が伝わってくるとすごくわくわくした」
「絵を触ることはできないが、感触の見本を触ることでイメージがふくらんで少し感動した」
「自分で想像して作る絵もなかなか素敵だったので、絵が全く描けない私も画家になれたような気がした」
「最後まで絵を見ないことで、より自分の中で関心が高まったり、思い出として残るように感じた」
「最初にアイマスクをしたので、もっとこういう情報が欲しい・・ともやもやしたまま体験を終えたが、伝える側になるとその難しさがわかった」
「自分の質問に対して、わかりやすく伝えようとしてくれるのが嬉しかった」
などなど。
難しいことも多かったと思いますが、その難しさにしっかり向き合いながら、見えないことを楽しんでくれたのではと思います。
美術館としては作品像を正確に伝えることも大事ですが、はたしてその“正しさ”とは一体なんだろうと考えると、実にあいまいなもののような気がします。
たとえ見えていても、一人ひとり作品の感じかたや解釈は違いますし、だからこそ美術作品には意味があるのだとも言えます。
今回は各々が主体的に作品と向き合い、作品を通じて積極的にコミュニケーションしてくれたのがとても嬉しかったです。
初めての試みでしたが、私達にとっても学びの多いワークショップとなりました。
自分は普段なにを見ているのか?
絵を見ることはどういうことなのか?
作品のことをどうやって伝えることができるのか?
美術館側もしっかり向き合っていかなければ、と改めて思いました。
どうもありがとうございました!
ワークショップ「あたたかなオーナメント」を開催しました
更新日:2018年12月5日(水) 【nakata Labs なかたラボ】
今年もあと1か月、
美術館にはクリスマスツリーが登場しました。
先日開催したワークショップ「あたたかなオーナメント」の様子をお伝えいたします。
羊毛フェルトを使って、冬らしいフワフワしたオーナメントをつくるワークショップです。
今年で3回目の企画です。
材料は、写真のような色とりどりの羊毛。
専用の道具を使って作ります。
まるい発泡スチロールの周りを羊毛で覆いながら形作ります。
羊毛をほぐして、いろんな色を合わせると、まだら模様が作れます。
そして、針を使って、ぷすぷすと刺していきます。
針には小さなくぼみがついていて、刺す度に羊毛が絡まりフェルトになる仕組みです。
ひたすら刺します。
根気のいる作業ですが、たまにはこんな時間も良いものです。
だんだん完成形が見えてきました。
縞模様をいれたり、水玉にしたり、様々なデザインが出来上がりました。
こちらはクリスマスらしく赤色のオーナメント。
丁寧な仕事が伝わってきます。
こちらもクリスマスらしい色合わせです。
緑色と紫色を上手に合わせると、こんなに上品に仕上がるんですね。
クリスマスツリーの柄を作りました。
写真はてっぺんの大きな星です。
家族三人で作ってくださいました。
みなさん手先が器用で、細かいところまで丁寧に作ってあります。
星や雪、ろうそく、ヒイラギの葉っぱ。
冬らしいモチーフをちりばめたオーナメントです。
大小2つのオーナメントを作ってくれました。
2つセットで飾ると、よりかわいさが増しますね。
こちらはたまご型のかわいい「いちご」です。
クリスマスカラーの赤と緑の羊毛で作っていたら、いちごに見えたそうです。
紐やビーズをつけるとこんな風になりました。
左側のオーナメントも、色のバランスを良く考えながらつくった、
優しいパステルカラーの作品です。
こちらは美術館に展示してあった、
キース・ヴァン・ドンゲン作「モーとレイモンド」に登場する姉妹をモチーフにしてくださいました。
手のひらサイズの小さなオブジェ、心が温かくなる作品です。
慌ただしい12月ですが
たまに手を休めて作ったオーナメントを眺めながら、
新しい年をむかえてもらいたいなあと思います。
参加者の皆さん、ありがとうございました!
ミュージアムコンサート『チェンバロのはじまりと広がり』を開催しました
更新日:2018年12月2日(日) 【コンサート】
毎年、秋のチェンバロコンサートは、いつもより本格的な90分のプログラムで行っています。
今回は形状の異なる2台のチェンバロとリコーダーとのアンサンブルをお届けしました。
チェンバロを坂由理さんと小田郁枝さんのお二人、リコーダーは川本真利江さんによる演奏です。
チェンバロが活躍していたバロック時代は約150年間あり、その初期から後期までに個性豊かな作曲家たちが誕生しました。
バッハやヘンデルといった大家に比べると、耳にする機会こそ少ないかもしれませんが、初期から中期に活躍したファーナビー、ヴィアダーナ、スヴェーリンクといった作曲家たちの曲にも新鮮な輝きがあります。
2台のチェンバロはそれぞれ音色も違っており、小型チェンバロであるヴァージナルは凛とした澄み渡るような音色、大きいチェンバロは艷やかな音色です。
そこに伸びやかなリコーダーの音色が折り重なって、ソロや連弾などでさらに色とりどりの響きになっていきます。
また奏者のみなさんには、トークでは緊張感と迫力がみなぎる演奏とはうってかわって、それぞれの音楽家たちの魅力的なエピソードを気さくな雰囲気でお話いただき、会場は時折笑い声に包まれました。
バロックの時代を音楽でたどりながら、想像をふくらませていただけたでしょうか。まるで時間旅行をしたような楽しい気持ちになりました。
ご参加いただいた皆様、奏者の方々、どうもありがとうございました。
次回のコンサートは
12/23(日)クリスマスミュージアムコンサート
当館のチェンバロコンサートでは初めての共演となるコントラバスが登場します。
クリスマスを彩る豊かな音色をどうぞお楽しみください。
音楽鑑賞の場として、所蔵のチェンバロを中心としたバロックコンサートを定期的に開催するほか、ジャズやクラシックなど様々なジャンルの演奏家によるディナー付きコンサートも企画・開催しています。併設するフレンチレストラン「ロセアン」では、ランチ・ティータイムはもちろん、美術館閉館後もゆったりとした空間でライトアップされた庭園を眺めながらの本格的なディナーが楽しめます。